2009年10月09日

自動車5ナンバーの栄光と挫折の考察(考察シリーズ9)


昔々政府の国産車振興策によって生み出された日本独自の規格である5ナンバー車は、その役目を終えて静かに去っていこうとしています。そう思えば戦後復興間もない、世界(特にアメリカ)に追いつけ追い越せの勢いは政府というか官僚達が一番生き生きしていた時期であったように思われます。

うがった見方をすれば太平洋戦争で日本を誤った道に導き、国民を地獄の苦しみを味あわせ、地に落ちた政府と官僚達の名誉挽回がかかっていたからなのかも知れません。その官僚達の頑張りはテレビドラマで放映されていた「官僚たちの夏」にも出てきましたね。

その5ナンバー車とは、長さ4.7m以下、幅1.7m以下、高さ2.0m以下、エンジンの総排気量2,000cc以下の小型乗用車のことですが、戦前1933年に最初にできた小型自動車の規格は、長さ:2.8m以下、幅1.2m以下、高さ:1.8m以下、エンジンは750cc以下という今の軽自動車に近いぐらいのサイズでした。それが何度か変更され1960年9月1日に現在のサイズとなりました。

実はこの規格に連動した税制こそ、当時まだ小さかった日本の自動車メーカーを守り、また育成し、世界に冠たる自動車大国に押し上げることになった、画期的な発案だったと思います。

つまりこのような小さな日本独自の小さなサイズにわざわざ合わせて作ろうとする外国の巨大自動車メーカーはなく、輸入車制限、高率の関税、小型車優遇の税制(5ナンバーと3ナンバーでは自動車税が倍額ほどの差がついていた)などとともに、この小さな5ナンバー車をやがて訪れたモータリゼーションの波で多くの国民に買わせることに成功したのです。

ついでに言うと、日本の道路を走るために独自の保安基準があり、1983年頃までは不細工なキノコのようなフェンダーミラーや意味のない速度警告装置を取り付けることとなっていましたが、これもまた輸入障壁として外国メーカーからやり玉に挙げられていました。

例えばポルシェやフェラーリ、デ・トマソやコルベットにもフェンダーミラーを装備し、(メーター読み)110km/hを越えるとチリンチリンと音でドライバーに警告する装置を取り付けなければ車両登録を許可されなかった時代が長くあったのです。フェンダーミラーの付いたフェラーリは買わんでしょう、普通。

その後、貿易障壁や貿易不均衡などが大きな国際問題となり、輸入制限や高率な関税などは次々と廃止され、外国製の車の輸入も登録も簡易になりましたがましたが、すでに国産メーカーは軽や5ナンバー車を中心にその地位をガッチリと固めていました。

ところが今度はその5ナンバーの制限が日本のメーカーを苦しめることになります。日本から輸出をする場合、当初は日本と同じ5ナンバーサイズのままで海外で販売をしていましたが、ユーザーの求める高品質、高い安全性、広い居住性を追求し、元々大きな車を得意としてきた外国メーカーと熾烈な競争をする上で、どうしても5ナンバーサイズより大きなサイズの車を提供する必要が出てきたのです。

そこでメーカーは、同じ車種でも日本と外国ではそれぞれサイズの違う車を作るという非常に不効率なことをやっていました。

そしてやがて業界団体の強い圧力もあったのでしょう、1989年に消費税導入に時を合わせ、税金は車のサイズには関係がなくなり、従来からある排気量や重量によってだけ変わるものになりました。

その結果、税金上は5ナンバーサイズの利点はなくなり、メーカーは従来は輸出用だった3ナンバー車をそのまま国内でも売るという以前とは逆の結果となりました。

現在日本の自動車メーカーは国内で販売するよりはるかに多い台数の車を世界中で売っています。ということは、日本の規格で作って世界で売るのではなく、世界の規格で作ったものを日本で売るという構図に変わらざるを得なかったと言うことです(トヨタの2008年総販売台数7,996,100台、内、国内販売1,470,000台(18%))。

今でも5ナンバーと3ナンバーで料金の違う有料道路(第三京浜ぐらい?)や繁華街の有料駐車場が残っていますが、もはやそれらも絶滅間近でしょう。

それで大方の人は「めでたしめでたし」となるのですが、私は今は諸般の事情で車幅が1800mmを越える3ナンバーのランエボXにやむなく?乗っていますが、実は熱狂的な5ナンバー支持者なのです。

もちろんランエボ]以前に乗っていた車はすべて5ナンバー車で、車の購入を前提としてカタログを見るときは、値段やパワー、トルク、室内の広さ、オプション装備などではどうでもよく、まず排気量、全長、全幅と最少回転半径を見る人なのです(ミニバンは買わないので高さはどうでもいい)。

「なぜ5ナンバー?」ですが、まずひとつ目は日本の多くの道路関連インフラは。効率を考えて一番数の多かった5ナンバーサイズを元にして作られているのでそれに合った5ナンバーが便利なのです。例えば道路の幅、駐車場(駐車スペースや立体駐車リフト)のサイズなどです。

軽自動車や5ナンバー車だとスピードを落とさずすれ違いができる狭い道路でも、3ナンバー車は一旦停止か徐行をしなければすれ違えないという状況によく出くわします。それは道路の幅が5ナンバーサイズを基準に作られているからに他なりません。

また郊外のスーパーなどの駐車場では3ナンバー車同士が隣り合わせに停めるとドアが半分しか開けられず、下手をすると相手の無防備なドアサイドにアタックをしてしまいそうになります。

少し古い住宅のカーポートも5ナンバーサイズで作られていますので、そこに3ナンバー車を無理矢理入れると、車から出入りができないというマンガのようなことも起きます。これらはすべて5ナンバー車サイズを基準に作られているからです。

面白いのはドアミラーの電動折りたたみを普及させたのは日本です。それまで安全上押せば倒れるドアミラーはありましたが、いちいち駐車するたびにたたむような使い方は誰も想像していませんでした。しかし日本では上記のような理由からたたまないと駐車場に入らない、すれ違えないという事態が頻発したのです。

私の故郷でもある京都は戦災を免れたため、戦前から続く細い道があちこちに残っています。そのような狭い道から狭い駐車場へと出入りしたり、電柱を避けて右左折をするには、車幅、全長、最少回転半径がモノを言うのです。

3ナンバーサイズは広大なアメリカやオーストラリアではたいへん有効なのでしょうが、日本やヨーロッパのようなどこへ行っても狭く曲がりくねった道の多い国では、5ナンバーサイズの車が便利だと思っています。

次に5ナンバーサイズは4〜5名が乗車できる乗用車として最低限のジャストサイズだと思うからです。もう十年以上も前ですがドイツの自動車技術者が日本のこの5ナンバーサイズの基準を知ってすごく感動したことが書かれていました。

ドイツでは戦前からあった有名な国民車フォルクスワーゲン(通称ビートル)が偶然5ナンバーサイズでしたが、その後はサイズに特に規制がなかったので、どんどんと車体が大きく重くなってきたことに反省しての発言でした。

車が大きく重くなると言うのは、当然排出ガスが増え、車1台に使う資源もエネルギーも増えることを意味します。つまりは大型になればそれだけ環境にとっては悪いということです。

それとこれが大きいのですが技術者やデザイナーはある厳しい条件下でその最善の解決策を求められたときが一番いい働きをします。極端な例ですが、5ナンバーの枠内で世界中のデザイナーと技術者が社運を賭けて切磋琢磨すれば、今の3ナンバー車に劣らない居住性、安全性、快適性、走行性能、そして美しいデザインが実現できるかもしれません。

それがハイブリッドや電気などの燃料問題とはまた違った方向の車の環境問題対策ではないかと思ったりするわけです。

【考察シリーズ】
バカバカしい軽自動車の馬力規制の考察(考察シリーズ30)
自動車盗難(2013)の考察(考察シリーズ27)
自動車部品の革新についての考察(考察シリーズ21)



posted by makan at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 考察シリーズ
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